パンとサーカス そして再び 作 ソンブレロ      いつか、どこかでの話。    中央にテーブル。    椅子は上手、下手にそれぞれ一脚ずつ。    女が一人、下手側の椅子に座り、翻訳作業をしている。    手元に原稿用紙、ペン皿には数本のペン。    傍らには数冊の本が積まれている。    やがて上手に訪問者。    女、立ち上がり上手に去る。    静寂。    女、戻り、もとの椅子に座る。    上手に人の気配がある。      女 どうぞ。    沈黙。 女 入って。    上手から一人の男が現れる。    男、無言のまま立っている。 女 どうしたの? 男 いえ……。 女 こちらへ。 男 はあ。 女 どうぞ。 男 はい。    男、上手から二、三歩進んだところ    で立ち止まる。 女 どうしたの? 男 いえ……。 女 お名前は? 男 え。 女 名前よ。 男 名前って……。  いや、それはべつに……。 女 べつにって、なにそれ?  言いたくないの? 男 そういうわけでは……。  でも必要でしょうか?  名前なんて。 女 どういうこと? 男 その……。 女 うん? 男 つまり私は、その……。 女 なに? 男 奴隷なわけですから。 女 ええ。 男 ですので……。 女 でも名前はあるでしょ?  それとも名前で呼ばれるのは嫌? 男 いえ。 女 今まで何て呼ばれてたの? 男 特に何も。 女 何も?  どういうこと? 男 ですから、私は奴隷ですし。 女 でもそんなの不便だわ。  でしょ? 男 まあ、強いて言えば……。  オイとか。 女 オイ? 男 あ、そう言えば、オマエと呼ぶ人もいました。 女 オマエね。  じゃあ私は、あなたって呼ぶわ。  それじゃ嫌かしら? 男 いえ。 女 じゃあ決まりね。  ねえ、もっとこっちに来て。  そこじゃ疲れるの。  いつもより大きな声を出さなきゃならないし。  ここに掛けてくれない?  ねえ。 男 はあ、でも……。 女 でもなに?  遠慮しなくていいわよ。 男 リビングの椅子なんかには掛けたことがないので。 女 そう。  座り方がわからない? 男 いえ。 女 じゃあ掛けて欲しいの。    男、ゆっくりテーブルに近づく。    静かに椅子を引いてから腰掛ける。 女 そうよ。  これからは掛けてって言ったらすぐに座ってね。 男 はい。 女 なにか飲む? 男 いいえ。 女 じゃあ何か食べる? 男 いえ、結構です。 女 ところであなたはここで何をしてくれるのかしら? 男 何でもするつもりです。 女 料理は出来るの? 男 いいえ。  でもパンを捏ねることは出来ますが。 女 そう。  でも料理って言ったのよ。  スープならどう? 男 いえ、それも。 女 じゃあコーヒーくらいなら入れたことがある? 男 そもそもキッチンに立ったことがありません。  申し訳ありません。 女 うぅん、いいわ、教えてあげるから。    女、目の前の本を手に取る。 女 ねえ、この本読めるかしら?    女、本を手渡す。    男、内容を確認する。 男 はい、読めますが……。 女 じゃあこの原稿はどう?  私がその本を訳したの。 男 ええ、こちらも読めます。 女 そう、それはよかったわ。  じゃあ両方を読んで。  それで確認してほしいの。  間違いがないかどうかを。  どう?  出来そう? 男 はあ。 女 じゃあお願いね。 男 いや、でも、あの……。  私でよろしいのでしょうか? 女 どういうこと? 男 いえ、その、こういった知的分野の役務に関わる際は、依頼される 意思を確認した上で行うこととなっていますので。 女 誰が決めたの? 男 誰って言うか、そう約款に記されているので。 女 約款?  ふぅん、読んでないわ。  でもつまり私が頼んだってことが明らかならいいんでしょ? 男 はい。 女 じゃあなにも問題ないじゃない? 男 はあ。  では、あの……。  ここではじめてもいいのですか? 女 ええ、どうぞ。  ペンはどれでも好きなのを使ってね。    女、原稿と筆記用具を男の前に出す。    男、すぐに作業を開始する。    女、しばしその様子を眺めている。 女 ねえ、飲み物を持ってくるわ。  何がいい? 男 え。 女 聞き方がよくなかったわね。  コーヒーか紅茶しかないの。  どっちにする? 男 あ、あの……。 女 うん?  どっちもいや? 男 いえ、その、どちらでも。 女 そういうのってつまらないわ。  せめて選んでもらえない? 男 あ、じゃあ、コーヒーをお願いします。 女 はい。    女、上手に去る。    男、黙々と作業を続ける。    女、意外に早く上手から戻る。    手にはシャンパンとグラスが二つ。 女 うっかりしてたわ。  お湯がなかったの。  沸かせばいいんだけど、でもこっちの方がいいかと思って……。    女、ボトルとグラスをテーブルに置く。 女 栓を開けてもらえないかしら?  これ開けるの苦手なの。  もらったんだけれど、それでずっと飲まなかったの。 男 あの、これ、どうやって……? 女 開けたことないの? 男 はい。 女 貸して。    女、キャップシールを剥がし、    男に返す。 女 まず、その針金をはずしちゃうの。  キャップを押さえながらね。     男、言われたとおりに針金を外す。 女 そうよ。  そうしたら、今度はそのコルクを抜くの。  これが注意がいるの。  力任せじゃダメなのよ。  ボトルを少し傾けてね、少しずつ力を入れて……。  最後はコルクじゃなくてボトルの方を回しながらね。  静かにスポンってね。  どう?  できそう? 男 はい。 女 じゃあお願い。    男、思った以上に力がいることを感じる。 女 固いでしょ? 男 ええ。    男、力ずくでコルクを抜こうとする。 女 うぅん、もっとゆっくり。 男 え。 女 もっとゆっくりだってば。  そんなに力を入れると……。    音を立てて栓が開く。    (もしくは栓が勢いよく飛ぶ) 男 うわっ!    二人、軽く笑う。 女 ありがとう。      女、二つのグラスに注ぐ。 男 あの、それ、お酒ですか? 女 そうよ。  シャンパン。  飲んだことない? 男 ええ。  あの、私は、それは頂かない方がいいんじゃないかと……。 女 大丈夫よ。  こんなのお酒っていうほどのものでもないわ。 男 ええ、でも……。 女 ごめんなさいね。  コーヒーって言ったのにね。  でもどう?  悪くないのよ、これ。  それにほら、初対面じゃない?  これからよろしくねっていうご挨拶の代わりじゃないけどね。  もしかしてアルコールは全然ダメなの? 男 いえ、でもこういうの初めてなので……。 女 遠慮しなくていいの。  私も初めてなのよ。  人を頼むのって。 男 頼むと言うか、私は奴隷ですから……。 女 だからなに?  奴隷だから何なの? 男 こんなふうにリビングに上げて頂いて、上等なお酒を頂くなんて ……。 女 疲れちゃうかしら?  ストレスになる?  でも悪いけど頑張ってみて。  これが私のペースだから。 男 はい。 女 じゃあ乾杯しましょう。  よろしくね。  乾杯。    女、飲む。    男も続いて飲む。    男 う……。 女 大丈夫? 男 これがシャンパンなんですか……? 女 そうよ。  口に合わない? 男 いえ……。        男、酒に炭酸が含まれていることが    予想外だったのである。 男 すごくおいしいです。  ちょっと驚きましたけど。 女 ふふ。  ねえ。  あなたどこから来たの? 男 どこ? 女 ここに来る前はどこにいたの? 男 ……。 女 なにをしていたの? 男 ええ、まあいろいろ……。 女 いろいろって、たとえば? 男 ……。 女 どうしたの? 男 申し訳ありません、その質問には答えられません。  守秘義務です。   我々はあらゆる舞台裏を見ていますので。  と言うか、舞台裏しか見ていませんので。 女 大変なのね。 男 いえ、でも所詮は奴隷ですから気楽と言うか……。  ですから丁寧な言葉も知りませんので、失礼を許して下さい。 女 私ね、口がかたいの。  信用できる人間なのよ。  でもいいわ。  もう聞かないわ。    沈黙。 男 あの……。  質問には答えられませんが、こちらから喋ることは出来ます。 女 私も質問されるのは好きじゃないの。 男 質問じゃありません。  話と言うか、こんなのはどうですか?  ローマ喜劇の中の会話なんですが。 女 ローマ喜劇?  へえ。  古い話なの? 男 ええ、まあ。 女 興味持てるかしら? 男 短い話です。  質問に答えられないお詫びとしてと思ったのですけど。 女 どんな話なの? 男 ローマ南部のとある裕福な家庭での話です。  その家には父親と母親と一人息子と年配の家政婦が住んでいました。  ある時、両親は息子の監視を家政婦に委ねて外国に別荘を買い求め に出掛けました。  その間に息子は家政婦の目を盗んで、思いつくままの愚行におよび、 ついにはその家に代々伝わる絵画を盗まれたことにして売り払って  しまいます。 女 それ、あらすじなの? 男 いえ、冒頭の説明です。  数日後に両親が戻ってきて、そこから会話が始まるんですが。  興味を持てそうもないですか? 女 退屈しそう。  悪いけど。 男 そうですか、ダメですか。 女 気を悪くしないでね。  ほら、私って仕事柄たくさんの文章に触れてるじゃない?  食傷気味なのね、そういうおとぎ話的なものはね。  だからごめんなさい。  続けて。 男 え。 女 仕事を。  翻訳のチェックの方を。 男 あ、はい。    男、作業に集中する。    女、黙って眺めている。 女 どんなかんじ? 男 ええ、その……。  誤字と思われるものが二か所あっただけです。 女 どれ、どこ? 男 ここと、あとこちらと。 女 ああ、そうね。  じゃあチェックしておいて。 男 書きこんでしまっていいですか? 女 ええ、遠慮しないで書いて。 男 あと、ちょっと気になったと言いますか……。  この二つの文の主語はどちらも「人々」よりも「我々とした方が  相応しいかなと思ったのですが……。 女 二つの文って? 男 この、人々への善意的自尊心をくすぐる―というところと、も  うひとつが、人々はこの暴挙を通俗的な社会現象のごとく受入れ  た―という部分です。 女 つまり、我々への善意的自尊心をくすぐる……。  我々はこの暴挙を通俗的な社会現象のごとく受入れた……。  そうね、でも、どうしてそう思ったの? 男 いえ、その、明確な根拠があるわけじゃないんです。  すみません、主観的なことでした。 女 うぅん、いいのよ。  いちいち私に確認しなくていいからチェックしておいてね。 男 はい。    男、再び作業に集中する。 女 あ、誰か来たわ。  聞こえた? 男 ええ、ノックが聞こえました。 女 あなた、出てくれない? 男 私でいいんですか? 女 ええ。  多分、郵便よ。  受け取ってくれるだけでいいから。 男 郵便?  かしこまりました。  サインも自分ので構いませんか? 女 もちろんよ。    男、上手に去る。    そしてすぐに戻る。    手にはふたつの封筒。 男 やはり郵便でした。  これを受け取りました。    男、女に封筒を手渡す。 女 ありがとう。  色白で痩せた男だったでしょ?  眼鏡をかけてて。 男 はい。 女 苦手なの。  また頼むわね。  これからはいつもあなたに出てもらうわ。 男 苦手……? 女 そう。  黙って郵便物をくれればいいのに必ず一言あるの。  それが嫌なの。 男 何か気に障るようなことですか? 女 他愛のないことよ。  今日は暑いとか寒いとか、風が強いとかね。  最初はなんとも思わなかったけど、毎回だとさすがに疲れるの。  私の服装や玄関にある靴についてなにか言うこともあるし。 男 一言注意しておきましょうか? 女 いいわ。  それも子供みたいで嫌だわ。  ねえ、この封筒開けてもらえない?    女、男に封筒を手渡す。 男 はい。 女 封筒って開けづらいのよね。  すぐ爪を引っ掛けちゃうの。    男、ふたつの封筒を開封する。 男 開けました。  どうぞ。 女 中をあらためてもらえない?    男、封筒の中を覗いてみる。 男 特に何か危険な物が入っている様子はありませんけど。 女 うぅん、そうじゃないの。  中の文章を読んでみてって言ったの。 男 本が入っていますけど、これを読むのですか? 女 違うの。  依頼の文章が入ってるでしょ? 男 ええ、でも私が読んでいいんですか? 女 プライベートなものじゃないし、仕事以外で文字を見たくないの。 男 じゃあ読みますけど……。  えーっと、まず差出人が……。 女 そういうのはいいわ。  要約して読んでもらえない?  提出期限とかね。 男 あ、はい。  えーっと……。  あ、納期だ。  あの、相談って書いてありますが……。  納期のところに、別途相談って。 女 相談?  時々そういうのあるけど、問い合わせると意外に急がせるのよね。  それはいいわ。  もう面倒くさいから。  捨てて。 男 え? 女 捨ててって言ったの。  あ、ゴミの捨て場所を教えてなかったわね?  その壁の向こうの右側。  白い箱が置いてあるからそこにお願いね。 男 はあ。 女 悪いわね。  このテーブルの上に一つでも余計なものを置きたくないの。  で、もう一つの方は?     男、もう一つの封筒から本と依頼書を出す。 男 えーっと、こちらも同じく翻訳の依頼のようで……。  依頼文を読みます。  こちらの納期は……。  あ、今月末となっています。 女 月末?  ちょっとその本を見せて。    男、本を女に手渡す。 女 ふうん。  ねえ、どう?  あなたなら出来るんじゃない?    女、本を返す。 男 私がですか……。 女 その本、以前訳したことがあるの。  きっと改版でもしたのね。  一見わからないくらい細かいところを変えて。  こういうのってとても億劫だわ。  で、どう?  月末までに出来そう? 男 どうでしょう。  こればっかりやっているわけにもいかないでしょうし。 女 いいわよ、そればっかりでも。  まあ少しはほかの用事も頼むかもしれないけどね。  飲み物の栓を抜くとか、郵便物を受け取ってもらうとかね。 男 はあ……。 女 出来ないならいいわよ。  無理にとは言わないわ。  それも捨ててくれない? 男 え、ええ……。  でもこちらで受けないとすると、この仕事はどうなりますか? 女 ほかに依頼を回すか、そのまま消滅するかのどちらかね。  いずれにしてもあなたが心配することはないわ。 男 わかりました。    男、上手に向かう。 女 待って。  その本もよ。  本も捨てて。 男 本もですか? 女 そうよ。  受けない仕事の本だけ置いていても仕方ないでしょ? 男 あ、でも……。  私が送り返しましょうか? 女 送り返す?  どうして? 男 本がなくなったら依頼元も困るんじゃないかと思って。 女 困るわけないわ。  スペアがいくらでもあるのよ。  返されてもむしろゴミを増やすだけだわ。  捨てて。    沈黙。 女 なに? 男 いや、でも……。  本を捨てるのは、ちょっと……。 女 捨てないの? 男 あの、もしよろしかったらですけど……。  この本、私が訳しても構いませんか? 女 どっちのを? 男 両方ともです。 女 いいわよ。 男 ありがとうございます。    男、封筒と本をテーブルの脇に置く。 女 ところであなたは銀行の口座は持ってるの? 男 口座ですか?  いいえ、ありません。  と言うか、私自身は作れません。 女 そう。  じゃあ私が作ってあげる。  あなた専用の口座を。  そこにあなたへの報酬が入るようにしましょう。 男 いえ、私はべつに……。 女 べつに何? 男 もしも何がしかを頂けるのでしたら全体の中の一部分と言いま  すか、僅かな割合でも有難く思います。 女 なにそれ。  私を介してあなたに分け与えろってこと?  そんな間接的なことしたくないわ。  私はマネージャーじゃないのよ。 男 申し訳ありません。 女 あなたが受けた仕事の報酬はそっくりあなたの口座に入るよう  にするわ。 男 はあ。 女 ねえ、ひとつお願いしたいんだけどね。  うぅん、これからいろいろお願いするかもしれないから一つ目の  お願いなんだけどね。  あんまり堅苦しい言葉使いはしないでもらえない? 男 言葉使いですか……。 女 そう、何か疲れるの。  重い感じがするのよ。  かと言ってあんまり馴れ馴れしいのは嫌よ。  それは気を付けてね。 男 そういう細かい調節が出来るかどうか……。 女 きっと今に慣れるわよ。  がんばってみてね。  いい? 男 かしこまりました。 女 ほら、それ。  かしこまりました? 男 あ、いえ、その……。 女 うん? 男 えーっと……。  わかりました。 女 そうね。  ふふ。  その方がいいわ。 男 (苦笑)    女、シャンパンを二つのグラスに注ぐ。 女 飲んで。    男、飲む。    溶暗。    やがて暗転。           第二場    数週間後。    テーブル、椅子の配置や卓上の本などは    前場面と同じ。    二人とも前場面と同じ位置に座っている。    シャンパンボトルではなく、代わりに飲 みほして空になったワインボトルと二つ のワイングラスがある。   男 当時のローマの有力者たちは、まるでそれが義務であるかの  ように、市民に主食と娯楽を提供してきた。  それが選挙の投票権を買い占めるためだったというのは周知の  事実である。    溶明。 男 「パンとサーカス」のパンとは、主食の小麦粉のこと。  サーカスとは、人や動物の曲芸から、ローマ喜劇や奴隷同士の  闘いなど娯楽全般を意味する。  この所謂バラマキ政策によって、ローマ市民は徐々に勤労意欲  を失い、怠惰な日々を過ごすようになった。  更に政府は市民の政治への関心を弱めるために選挙の投票権の  売買を自由化した。  しかし、これだけ市民が堕落しながら帝国は滅亡せず、むしろ  五百年余りも繁栄を保てた。  なお、パンとサーカスと奴隷制度は卵とニワトリのように同時  発生的であり、奴隷解放とともに必然的に終焉を迎えることと  なった。 女 ……。(浅い眠り) 男 あの……。  続けますか?  あの……。    女、反応がない。    男、戸惑って。 男 あの……。 女 え。 男 今のが冒頭の私が手を入れた部分です。 女 あ、そう。  えーっと、どこに手を入れたのかしら? 男 強大な帝国が衰退するどころか―という部分を、これだけ市民  が堕落しながら―としました。  あとは、細かいところですが、二、三か所ありまして……。 女 いいんじゃない?  後半ちょっと聞いてなかったけど。  ごめんなさい眠っちゃったの。 男 じゃあ最後の方だけ繰り返しましょうか? 女 うぅん、大丈夫よ。  あなたなら間違いないと思うし。  ご協力ありがとう。  もう封をしてもらえない?  まだ二時の便に間に合うわ。 男 はい、ではそうします。 女 私が一冊訳す間にあなたは五冊も訳したわ。  しかも私の訳したものの確認までさせられているのにね。 男 いえ……。 女 お疲れ様。  乾杯しましょう。  ワインを持ってきてもらえない? 男 ええ、でも今日はもう昼食の時にすでに一本空けてますし。 女 そうね、そうだったわね。  あ、ゆうべ夜中に栓を抜いたのがあったわ。  変な時間に目が覚めちゃってね、それでちょっと飲んだんだけど、  忘れてたわ。  もったいないから飲みましょうよ。  せっかくだしね。 男 え、ええ……。 女 なに?  飲みかけなんかで乾杯するのは嫌? 男 いや、そうじゃないですけど、ここのところよく召し上がって  るから……。 女 体に悪い?  でもこれが私のペースなの。  知らない?  ペースを乱すと逆に体に悪いのよ。 男 わかりました。  キッチンですね? 女 寝室よ。  私が取ってくるわ。    女、上手に去る。    男、原稿を傍らにあった封筒に入れる。    女、ワインを持って現れる。 女 おまたせ。    女、二つのグラスにワインを注ぐ。 女 じゃあ乾杯しましょう。  あなたの勤勉さが実を結びますように。  乾杯。    二人、飲む。 女 ねえ、今私が取り掛かっているのもそっくりお願いしようかしら? 男 それは構いませんけども……。 女 けども……?  なに?  少しは自分もやれ? 男 いえ、そういうわけじゃ……。 女 じゃあお願いね。    女、手元の本を男に差しだす。 女 まだほとんど手をつけてなかったの。  これ、あなたが受けたことにしましょうね。 男 あ、ノックしました。  郵便かもしれません。 女 そうね、丁度よかったじゃない。 男 ええ、出してきます。    男、封筒を持って上手に去る。    短い間ののち、大量の封筒を抱えて戻ってくる。 女 せっかく出したのにもう次が来たのね。  しかもずいぶんな量ね。 男 ええ、驚きました。  これは一体……。 女 きっとあなたへの評価よ。  急に仕事のピッチが上がったでしょ?  驚かれたみたいだったから私が言ったの。  優秀なアシスタントが来てくれたのって。  正確で速いし、なにしろ仕事を選ばないって。    男、無言のまま封筒を机の上に積む。 女 ねえ、ちょっと見せたいものがあるの。 男 なんでしょう? 女 待ってて。    女、上手に去る。    男、封を開けて中から依頼書を取り出して目を通 している。    女、上手から男もののジャケットを持って現れる。 女 これ、あなたに。 男 え。 女 用意したのよ。  ゆうべ届いたばっかり。  着てみて。 男 私に……? 女 そうよ。  こっちへ来て。 男 え。 女 早く。  手を通してみて。    女、男の背中に回る。 女 いい? 男 はい。    男、ジャケットに両腕を通す。 女 どう?  着心地は。  窮屈だったりしない? 男 ええ。 女 いいじゃない? 男 はあ……。 女 差し上げるわ。 男 え、あ……。 女 うん?  それ悪くないものなのよ。 男 はあ、でもどうして……? 女 来週ね、ちょっとしたパーティーがあるのよ。 男 パーティー? 女 仕事の関係だけどね。  時々あるの。  しばらくご無沙汰してたんだけど、たまには出てみようかと思って。  あなたも一緒に来て。 男 私も?  いや、でも……。 女 大丈夫よ。  軽く飲んで、食事して、何人かの人に挨拶するだけなんだから。  あなたは私の横にいるだけでいいの。  横で一緒に話を聞いたり、頷いたり会釈したりね。  それだけでいいの。  簡単でしょ? 男 ええ、でも初めてなので……。 女 すぐ慣れるわよ。  がんばってみて。  そういうところに少しずつ出ていった方がいいわ。 男 はあ。 女 シャツとズボンが洗面所に掛けてあるから着てみてね。  あとで食事に出掛けましょう。  テーブルマナーも覚えておいた方がいいわ。 男 ええ、でも……。 女 うん?  なに?  忙しくてそんな時間ないかしら? 男 いえ、でも必要でしょうか? 女 なにが? 男 私は、つまり奴隷なわけですし……。 女 だからなに?  奴隷だからなんなの? 男 いや、その……。 女 それもう言わないで。  聞きたくないの。  いい? 男 わかりました。 女 あなたネクタイは結んだことはある? 男 ありません。 女 そう、じゃあ教えてあげる。  食事をする前にネクタイを選びましょう。  何本か持っていた方がいいわ。 男 でもどうして私にそのようなことをしてくれるのですか? 女 どうして?  その方がいいと思ったからよ。  深い意味なんかないの。  だから深く考える必要ないのよ。  それじゃダメ?  納得いかない? 男 いえ……。 女 私は私の価値観で生きてるの。  そばにいるあなたのこともその価値観の中でしか考えられないの。  いつも言うけど、これが私のペースなのよ。  だからがんばってもらえる? 男 はい。 女 ひとつ付け加えておくけど、これはあなたが奴隷だから従ってく  れって言ってるんじゃないの。  一人の人間同士としてよ。 男 わかりました。     男、封を開ける作業を続ける。 男 あ、またノックの音が……。 女 そうね、何かしら? 男 見てきます。     男、上手に去る。     短い間ののち、男、上手から。 男 今月の分の小麦粉の配給だそうです。     女、立ち上がり、上手に向かう。 女 じゃあキッチンの収納庫に入れておいて。 男 はい。     男、上手に去るが、すぐに封筒を持って戻る。 男 それから、これは映画と歌劇の鑑賞券だそうです。     男、女に封筒を手渡す。 女 ありがとう。  もうそんな時期なのね。  あなたが来てからなんだか時間が経つのが早くなった気がするわ。 男 あとでパンを捏ねますので。 女 実はね、私も少しだけ捏ねてみたの。  この間、久し振りにね。  あなたが捏ねたパンっていつもふっくらと焼き上がるから真似して  みようかと思って。  でもダメね。  思ったようにいかなくてすぐに短気を起しちゃったの。 男 パン、足りませんでしたか?  今日は少し多めに作りましょうか? 女 うぅん、そうじゃないの。  ただ、ちょっとした気まぐれって言うか、自分の根気を試してみたく  なって。  でもすぐに底が見えちゃったわ。  いまやこんなものなのね、私の根気って。  こうやって堕ちていくのね。 男 おちる? 女 どうして悪い歴史に限って繰り返されるのかしらね。  これって人類普遍の法則性みたいなもの?  まさにパンとサーカスの再来。  首までたっぷりとぬるま湯に浸って、心も体もふやけきって……。  でも誰もそこから抜け出せないの。  もちろん私も。  思う壺。     沈黙。 男 でも……。 女 でも? 男 何て言うか……。  そのような流れに対して異を唱えると言うか……。  つまり、そういう意味だったのではないですか?  取り組んでらっしゃる本を見て、そう感じました。  最初は単に些細なことにこだわって仕事を選んでいるのかと思いまし  たが、そうじゃないんだと。  はるか紀元前の悪しき施策の再来。  その警鐘を鳴らそうとされているのではないですか? 女 警鐘だなんてオーバーね。  私は本を訳しているだけよ。  本を書いているならともかく。  まあでもそういう意図で本を選んでいたのはあなたの言う通りよ。 男 依頼のすべてを受けている自分がなんだか節操がないみたいな気が  します。 女 あなたって物事を深刻に考えるのが好きなのね。  私もそうだったのよ。  気が合ったかもしれないわね。  もう少し前ならね。    女、座り、ワインを飲む。 女 その唯一の主体性みたいなものも崩れちゃってるけど。  だって、ちょっと手をつけただけであなたに丸投げをしたじゃない?  だからもう思う壺だわって思っちゃったの。     男、座る。 男 もしかして私のせいでしょうか? 女 違うわ。  勝手に責任を感じたりしないでね。  いま言ったでしょ?  深刻に考えすぎないこと。  いい?  壁を取り払ってもっと人の輪に入っていかなきゃ。 男 ……。 女 黙らないの。  何かを言われたら瞬間的に気の利いた言葉を考えて返すのよ。  そういうクセをつけた方がいいわ。 男 はあ……。  なるべくそうしてみます。 女 なるべくじゃダメ。  もっとがんばってみて。  あなたに変わる気がなければ何も変わらないわ。  でも変わろうと思えば変われるの。  あなただってついさっき諦めちゃダメって言ったでしょ? 男 え、ああ……。 女 あ、うぅん、そんなこと言ってなかったわね。                       諦めちゃダメなんて、それは私の思い込みね。 男 思い込みとは願望が元となった希望的自己暗示である。 女 え? 男 そして自己暗示とは自身の心の平衡を保つためのもっとも有効な  方策である。    沈黙。 女 なに? 男 ゲーテの言葉です。 女 ゲーテですって? 男 ええ、この本の中で見つけた言葉なんです。  世界の名言・格言集。  冗談のつもりだったのですが……。  突然失礼しました。 女 なんだ……。  驚いちゃった。  あなた、冗談も堅苦しいのね。  でもいまの言葉って本当にゲーテなの?  聞いたことなかったけど。 男 え、ええ、この本はまだ新しいので、ごく最近のゲーテの言葉じゃ  ないかと思います。 女 そう。  だから知らなかったのね。  ところでゲーテってまだ健在だったっけ? 男 そうですね、まだ生誕二世紀半くらいですから……。 女 二世紀半?  ふふ。  で、誰の言葉なの?  本当は。 男 すみません、私です。  いま咄嗟に考えました。 女 やっぱりね。  でもいいじゃない。  真面目な顔して冗談を言うのもおもしろいわ。  ただ、冗談って言わなきゃ分からない冗談はちょっと困っちゃうけどね。 男 はい、もっと勉強しておきます。 女 じゃあ今夜は映画かミュージカルに行きましょう。  きっと勉強になるわ。  話題作りにもね。  ねえ、どっちにする? 男 どっちって……。  行くか行かないかってことですか? 女 映画かミュージカルのどちらかってことよ。  映画の方が好き?  それともミュージカル? 男 どちらも今まで縁がありませんでした。 女 じゃあ今夜は映画にしましょう。  まずネクタイを選んで、それから映画を観て、そのあとに食事。  ミュージカルはまた次の時に。  どう? 男 わかりました。  あ、まただ。  ドアをノックしてます。 女 本当ね。 男 見てきます。    男、上手に去る。    短い間ののち大量の封筒を抱えて戻る。 女 それも? 男 臨時便だそうです。 女 はじめてだわ。  臨時便なんて。  もしかして世界中の翻訳の依頼がここに来るのかもね。 男 まさか……。 女 だとしたら大変ね。  映画どころじゃなくなっちゃう。  私も手伝うわ。 男 お願いします。    二人、開封して、依頼書を確認して本を積む。 女 なにこれ。  差出人名がないわ。    女、開封する。 女 しかも依頼書も入ってない。 男 何の間違いでしょう? 女 間違いってわけじゃないの。  時々あるのよ、こういうの。  無名作家の仕業よ。 男 どういうことですか? 女 すでに絶版になった本をまたべつの言葉で生き返らせたくてね。  訳してもらいたくて直接送りつけてくるの。 男 でも肝心の差出人名がありませんが? 女 つまり翻訳してほかの本と一緒に流通してもらいたいんでしょうね。  万に一つの望みに賭けてね。  まるで無人島に取り残された人が救助の手紙を瓶に入れて海に投げる  みたいに。    女、封筒から本を取り出す。 女 でもこれ。  私には読めないわ。  意味なかったわね。  これじゃあ万に一つの可能性もないわ。 男 見せてもらえますか?    男、本を受け取り、目を通す。 女 どう?  もしかして読める? 男 ええ、偶然ですが。 女 知ってる作家なの? 男 いえ、おっしゃるとおり無名の作家のようです。 女 仕事の邪魔ね。  捨てましょう。 男 ええ、でも……。 女 そんな暇、あなたにはないんじゃない?  世界一忙しい翻訳家さん。    男、本を机の端に置く。 女 それも捨てないの? 男 なんだか、これだけは捨ててはいけない気がして。 女 一度も捨てたことないクセに。 男 優先順位は最後になるかもしれませんが、いずれ訳します。  偶然とはいえ、読めるわけですから。 女 ところでその言葉はどこで覚えたの? 男 ……。 女 それも答えられないのね。 男 すみません。 女 いいのよ、答えたくないのなら。  べつに知りたくて聞いたわけじゃないわ。 男 ではどうして聞いたのです? 女 こちらの質問に答えてもらえるかどうかを知りたかっただけだ  から。 男 それについては申し訳ないと思っています。 女 だからいいのよ。  真実が欲しいわけじゃないから。  でももし黙っているのがストレスになってきたら聞くわ。  その時は言ってね。  どうせ私から漏れ広がるようなことはないのだから。  なにも心配はいらないのよ。 男 ありがとうございます。  ところで、どうせ、というのはどういう意味でしょう? 女 どうせ?  私が言った? 男 ええ、たったいま。 女 そう。  あなたは自分が喋らないのに人には質問するのね? 男 すみません。 女 ねえ、じゃあ一つずつ質問をし合いましょう。  いい?  あなたはどうなの?  なにを背負っているの?  自分の身だけ?  それとももっと違うなにか? 男 いえ、べつに……。  女 どんな希望を持っているの?  あ、ひとつだけだったわね。  じゃあ、どんな人?  もしかして覆面兵士だったりするかしら? 男 え。 女 取引しましょうよ。  その代わり私も一つだけ質問を受けるわ。 男 取引?    沈黙。 女 ふふ、なに?  そんな真剣な顔しないで。  冗談よ。 男 いえ。  私は覆面兵士ではありません。  軍にも属していません。  ただの奴隷です。  よくいるふつうの。  本当です。 女 もういいわ。 男 では伺います。  どうせと言うのはどういう意味ですか? 女 だから取引なんて冗談よ。 男 いえ。  私は答えました。  ですのでお願いします。 女 冗談だって言ってるでしょう?  あなたが兵隊だなんて最初から思っていないもの。  何も知ったことにならないわ。 男 じつは初めてお会いした時に感じました。  何か重たいものを背負ってらっしゃるのではと……。  底知れぬ孤独感と言うか、虚無感と言うか……。 女 勝手に感じないで。  そんなことないんだから。 男 どうせと言ったのは? 女 あなたって意外とこだわり屋なのね。  でも答えようがないわ。  あなただって無意識に言葉が出ることってあるでしょ? 男 それは、まあ……。 女 つまりそういうことよ。  だからそこにこだわっても仕方ないわ。 男 ……。 女 それより着替えてきて。  ネクタイを選びに行きましょ。  仕事はまた明日。  ね。    沈黙。 女 さあ。 男 はい。    男、上手に去る。    溶暗。    やがて暗転。      第三場    更に数週間後。    テーブル、椅子の配置は前場面のままだが、    机上の本は更に増えている。    二人とも前場面と同じ位置に座っている。    女の目の前には、ワイングラスとデキャンタ。    そして皿の上にパンが載っている。 男 その時、民衆の視線は一人の男に集まりました。  その男とは、さっき時計塔に登った下男です。    溶明。  彼の登場に人々は賞賛の拍手を送っています。  そして、その下男は、元気よくこう言いました。  これはこれは皆さん、このように恭しい眼差しを浴びるのは僭越の  極みでございます。  でも皆さんよりも高いところからお話しするのはこれが最初で最後  になります。  皆さんをたぶらかした悪徳元老議員は、ご存じの通り失脚してその  身を追われました。  皆さまの勤労意欲も回復し、町は復興を遂げました。  そのような次第により私は本日をもってお役御免となります。  私のような身分でありながら見張り役という言わば憎まれ役的な  任務は正直言いまして消耗の毎日でございました。  しかしこの町の復興に僅かでも寄与できたのなら無上の喜びであ  ります。  どうか皆さんがもともと働き者であったことを思い出されたよう  に、深い信仰心をお持ちであったことも思い出してくださいませ。  その言葉を受けて人々は勤労と平和の神に祈りと供物を捧げまし  た。  身を清めるために井戸の水を頭からかぶる者もいました。  人々が祈りを捧げているのを横目に、下男は静かにそしてとても  満足げに町を後にしました。  彼の足取りは軽く、希望に満ちているようでした。  以上、おしまいです。    沈黙。 女 あ、もう?  へえ……。  でも今のお話ってどこで笑えばよかったのかしら? 男 どこ……。  そうですね、人それぞれでしょうけど……。  退屈でしたか? 女 うぅん、そんなことないわ。  でもローマ喜劇っていうから、もう少し笑いの要素があるかと  思ったわ。 男 悲劇以外のものはすべて喜劇に属するようなので。  まあ当時はこれでも笑えたのかもしれません。  ちなみに今のはギリシャ喜劇ですけど。 女 ギリシャ?  あ、そうだった?  でもその下男って新政府から見張り役なんて任されてよく断らな  かったわね。  よっぽど正義感が強いとか? 男 さあ……。  想像ですけど、主人かそれ以外の人の中に助けてあげたいとか、  好意を抱いている人がいたのかもしれませんね。  立場上表面には出さないだけで。 女 好意ね……。  でもそんなに気になる登場人物なんていた? 男 えーっと……。  たとえば、花屋の女店員とか。 女 ああ、そうね、なるほどね。  ごめんなさい、せっかく聞かせてくれたのに、これじゃ甲斐が  ないわね。  途中ちょっとボーっとしちゃったの。  悪いクセね。 男 いえ……。 女 あなたは一体私の何倍の本を読んだのかしらね? 男 そんな……。  処分場で拾った本ばかりなので行き当たりばったりの乱読です。    女、ワインを飲む。 女 ねえ、よかったらこのパンもいかが? 男 私はもう頂きましたし、少しは食べた方がいいですよ。 女 そうね、でもいまは食欲がないの。 男 もう一度火を通しましょうか? 女 うぅん、大丈夫。  せっかく焼いてくれたのにね。  まだいい香りがする。  この香りだけでもワインが飲めるわ。  あなたもどう? 男 少し頂いていいですか? 女 ええ、もちろん。    女、もう一つのグラスにワインを注ぐ。 女 あなたのこれからの活躍を祈念して。  乾杯。    二人、飲む。 男 こちらに来て、いろいろと有意義な経験をさせて頂きました。  ありがとうございます。 女 そう。  でも感謝なんてしないでね。  何かをして差し上げてるつもりはないんだから。 男 ええ、でも率直な気持ちとして言っただけです。 女 有意義だと思ってくれて嬉しいわ。  それに私も楽しかったの。  映画を観ても、歌劇を観ても。  そのあとの食事で語り合うのもね。  役者の細やかな所作まで見逃さない観察眼に脱帽したわ。  セリフに対するあなたなりの解釈にも。 男 パンケーキでも焼きましょうか? 女 あなたが食べたいの? 男 いえ、先日せっかく焼き方を教えてもらいましたので、腕試し  と思って。 女 それより何かほかに教えて欲しいことがある?  あったら言ってみて。  私の教えられることなんてたかが知れてるかもしれないけどね。 男 いえ……。  コーヒーの入れ方、パスタのゆで方、焼き物や蒸し物の調理の仕  方……。  それにネクタイの締め方や服の着方も教えて頂きました。 女 でもまるで最初から知っていたみたいに飲み込みが早かったわ。 男 一流レストランにも連れて行ってもらいました。  こんなにおいしいものがあるなんて知りませんでしたし、楽しい  と思えることがこんなにあるとも知りませんでした。 女 そう。  それはよかったわね。  世界が広がって。  これからももっともっと広がっていけると思うわ。    二人、ワインを飲む。 女 ある意味羨ましいわ。  そうやって広がっていけるあなたが。 男 あの、もしよろしかったらですけど、新しく言語を覚えませんか? 女 新しい言語……? 男 いえ、新しいと言うか、むしろ古い言語ですけど……。 女 それってどんな言葉なのかしら? 男 私が最初に覚えた言語です。  今はほとんど使われていませんし、昔の本が時々見つかる程度で  あんまり役に立たないかも知れませんけど……。 女 知らない言葉を覚えるのって好きよ。  開拓するみたいで楽しいものね。  でも今はあなたに開拓してほしいわ。  その方が価値があるような気がするし。 男 私に? 女 そう。  久し振りに人に何かをして上げたい気持ちになれそうなの。  あなた、音楽は興味あるかしら? 男 音楽ですか……。 女 管弦楽コンサートなんてどう? 男 まるで知識がありませんが。 女 じゃあこの機会に広げた方がいいわ。  フルオーケストラよ。  招待状をもらったの。  あなたはもっと世界を広げた方がいいし、もっと自分を見出した  方がいいわ。  ねえ、コンサートに出掛ける時には服装に気をつけてね。 男 買って頂いた服を着て行きます。 女 終演後にはちょっとした歓談のサロンがあるから顔を出してみ  てね。  無理して輪に入ることはないけれど、挨拶くらいはして少しずつ  顔見知りを増やした方がいいわ。 男 あの、一緒に行かれるんじゃないんですか? 女 あなた一人で行くの。  大丈夫よ。  最初は気後れするかもしれないけど、すぐ慣れるわ。 男 いや、でも……。 女 いつまでも私のアシスタントっていう立場ではあなたにとって  も良くないわ。  がんばってみてね。  それから、これを……。    女、テーブルの下のバッグから封筒を    出して男に手渡す。 女 あなたの口座の暗証番号が記されているの。  大切にね。 男 はあ。  でもどうして……? 女 あなたの口座だもの。  あなたが自由に使えなければ意味がないでしょ?    沈黙。 女 うん?  仕舞って。 男 はい。  お預かりします。    男、封筒を内ポケットに仕舞う。 女 誰かドアをノックしたわ。 男 ええ、見て来ます。    男、上手に去る。    やがて大量の封筒を抱えて戻ってくる。 男 また臨時便でした。   すぐに開封作業を始める。 女 なんだかあなたが頑張れば頑張るほど本の山が積み上がっていく  みたいに見えるわ。  なにか苦行を強いられた修行僧みたいね。 男 ええ、これじゃあまるでシジフォスの岩のようです。 女 シジフォス……? 男 ギリシャ神話の登場人物です。  彼は、ある理由で神々の怒りを買ってしまって、大きな岩を山頂ま  で運ばなくてはならない罰を受けたんです。  でも何度運んでも山頂まで運びきるや否や岩は転げ落とされて、ま  たやりなおし、これが永遠に終わらないという残酷な話です。  つまり、徒労の代名詞みたいに使われるんです。 女 本当に残酷な話ね。  でもこれはあなたにとっては災難でも徒労でもないわ。  ちょっとした苦行かもしれないけどね。 男 大丈夫です。  ふとそう思っただけです。    男、開封作業を続けている。 男 あ、こんな本が入ってました。  「パンとサーカス その功罪」。  この本、訳されてはいかがですか? 女 そうね。  少しは働かなきゃね。  でも一体誰が読んでくれるのかしら? 男 思っている以上にいるかもしれません。 女 そうだといいけど……。 男 現にこうして依頼が来ているわけですし。  それにいまのこのバラマキ政策に疑問を感じている人は少なくない  はずです。 女 そうね。  私だってその一人のつもりよ。  でも実際はこのとおり。  あらゆる気力が失せてしまって、仕事はあなたに任せっきり。  仕事だけじゃなくて何もかも。      女、ワインを飲む。 女 本当に思う壺ね。  わかっているのにね。  まさにパンとサーカスに浸りきり。 男 この本じゃなくてもいいんです。  どれでもいいですから少しずつ始めてはいかがかと。 女 ありがとう。  そうね、その方がいいわよね。    女、二つのグラスにワインを注ぐ。 女 あなたって親切で忍耐強い人ね。  もう一度だけ乾杯して。  あなたにこれから素晴らしい出会いがたくさん待っていますように。  乾杯。    二人、飲む。 女 いろいろ心配して頂いて本当にありがとう。 男 いえ……。 女 あなたのおかげで救われた気がするわ。  お疲れ様。  今日はこれでお終いにしましょう。  あんまり根を詰めすぎると体に悪いもの。  たまには早く帰って休んだ方がいいわ。 男 まだ夕刻にすら間がありますが。 女 今日は少し疲れたわ。  昨夜眠れなかったの。  そのせいね。  あなたもきっと疲れている筈よ。  ゆっくり寝てまた明日ね。    沈黙。 男 あの……。  今夜は眠れそうですか? 女 ええ、そうね、恐らくね。 男 なにかお役にたてることがありますか? 女 大丈夫よ。  あなたも体には気をつけてね。 男 あの、その、心細いとか、そういうことは? 女 え? 男 いえ、その……。  もう一杯頂いてもいいですか?    女、無言で男のグラスにワインを注ぐ。    男、少し間を置いてから飲む。 男 申し訳ありませんが……。 女 うん? 男 わがままを言わせて頂いていいですか? 女 え? 男 もう少しここに居させてくれませんか? 女 明日になさいよ。    沈黙。 女 なに? 男 もう少しだけ、何か話でもしませんか? 女 話し? 男 ええ、もう少しだけ。  なんでもいいんです。 女 どうしたって言うの? 男 まだ帰りたくないんです。 女 なに言ってるの? 男 私のおかげで救われたとおっしゃいましたが……。 女 ええ、で? 男 まだなにも救えていない気がして……。 女 救えていない? 男 ええ、まだなにも……。 女 それでどうしようというのかしら?  確かに救われたと言ったわ。  でもそれは私が勝手に思ったことよ。  あなたになにかしてもらったということじゃないの。  ましてなにかをして欲しいと願っているわけでもないのよ。 男 これも単にご自分のペースということですか? 女 そうよ。  だから勘ぐらないでね。  ペースが乱れるから。 男 ええ……。 女 うん?  わかってもらえたかしら?  じゃあお帰りなさい。     男、立ち上がる。     上手に向かって何歩か進んだところで振り返る。 男 あ、まだ明日の分のパンを捏ねていませんでした。 女 うぅん、今日はもうなにもして欲しくないの。 男 でもまだひとつも捏ねてなかったので。 女 必要なら自分でなんとかするわ。  もう心配しないで。 男 でも、やっぱり……。 女 なんなの?  帰ってって言ってるの。  わからない? 男 あの……。 女 帰って。  帰りなさい! 男 嫌です!    男、女の傍まで近づく。    女、反射的に立ち上がる。    空気が張り詰める。 男 帰りません。 女 もっと大きな声を出すわよ。  もし誰かが駆けつけてきたらどうする?  どうするの?  格闘する?  私は叫ぶわ。  人がまた人を呼んで……。  きっとあなたは捕らわれて、もう自由ではなくなるのよ。 男 だったら最初から鎖をつけてください。  玄関の脇に置いた鎖と錘を後ろ手につけてください。  そして私をここに置いてください。  それでも駄目ですか? 女 わけがわからないわ。    沈黙。 男 誰か来ました。 女 え。 男 ノックの音です。      沈黙。 女 私が出てくるわ。 男 いえ、私が出ます。  あのノックのかんじは恐らくいつもの郵便局員です。    男、上手に去るが、間もなく戻る。 男 お呼びです。 女 私を?  誰なの? 男 いつもの局員です。 女 なんなの? 男 それが、ご本人にしか用件は告げられないそうです。  どうしますか? 女 いいわ。  出るわ。    女、上手に去るが、間もなく戻る。 男 なんの話でしょうか? 女 あなたには関係ないことよ。 男 選挙の投票権に関してではありませんか? 女 聞いてたの? 男 いえ。  投票日が近付いているのでそう思っただけです。  そうなんですか? 女 だとしてもあなたには関係ないでしょ? 男 投票権をどうされるつもりですか? 女 あなたの知ったことじゃないわ。 男 もしかしてお売りになるんですか?  投票権を。  違いますか? 女 だったらなんだって言うの? 男 どうしてですか? 女 行使しても意味がないからよ。  無駄な抵抗はまさしく無駄だからよ。  それなら売った方が利口でしょ? 男 それではあなたが言ったように、まさに思う壺なんじゃないで  すか?  パンとサーカスによる民衆の堕落。  政治への無関心。    女、座ってワインを自分のグラスに注ぐ。 女 あなたも掛けて。  取り乱してごめんなさいね。  でも本当に疲れているのよ。 男 もし出来たら私にその投票権を売ってもらえませんか? 女 あなたには売れないわ。 男 駄目ですか? 女 そもそもあなたが買っても仕方ないでしょ? 男 ええ、買ったところでその投票権は私には生かせません。  そのまま消滅するだけです。  ゼロです。  でも、マイナスの方向に生かされるよりは、ゼロの方がまだ有意義  だと思います。 女 投票権って高いのよ。 男 いくらなんです? 女 あなたが思っている以上に高いの。 男 ですからいくらですか?  私が働いた分の報酬をすべて投じても足りませんか? 女 そうよ。 男 ではいくら足りませんか? 女 そんなことして何になるの? 男 ですから……。 女 あなたって一体どっちなの?  馬鹿なの?  賢いの?  全然わからないわ。 男 そうですね、そういう意味では賢くはないかと思います。 女 もう少し見込みがあるかと思ったのに。 男 すみません、もう一杯だけいただけますか?(座りながら)    女、男のグラスにワインを注ぐ。 男 せっかくの取り計らいになにも応えることも出来ずに申し訳なく  思います。  でも、わがままを言ったのは、せめてひとつくらいはお役に立ちたい  と思ってのことです。 女 え? 男 私は賢くはなくても、それでもとりあえずは生きていますが、死を  選ぶというのはなによりも愚かなことではないですか? 女 誰が死ぬって?  私が? 男 見当違いならいいんですけど。 女 なにを言ってるの?  見当違いもいいとこよ。 男 なにか嫌な予感がしたもので。 女 勝手に勘ぐらないでね。 男 思い直して頂けないかといつも顔色を伺っていました。 女 一体どうやって命を絶つっていうの?  薬?  それともガスかなにか? 男 わかりません。  でも……。 女 でも、なに?      男、立ち上がり、背を向ける。    男 じつは、あなたが書いた遺言状のようなものを読んでしまいました。  すみません。  偶然目に入ったもので、それで……。 女 いつ、どこで? 男 観劇に出掛けた夜です。  食事をしたあとに少し飲みすぎて具合が悪いと言われたので私が送り  ました。  ソファーに崩れ落ちてしまったので、少し迷いましたが、寝室まで  お連れしました。  その際です。 女 冗談に決まってるでしょ。  真に受けないで。 男 私への指示というか、依頼事項が箇条書きになっていました。  あなたの預金の振り替え方や、投票権の売買の手続きについてなど  の説明が事細かく書かれているようでした。 女 どうして私がそんなことしなきゃならないの? 男 本当に。  でも、その指示の文章がここに入っているじゃないんですか?    男、さっき受け取った封筒を内ポケットから出す。 男 違いますか?    沈黙。 男 開けてみていいですか? 女 駄目。  今は見ないで。 男 ええ、見ません。  と言うか、思い直して頂けるなら一生見ません。    男、封筒をテーブルの上に置き、座る。 女 あなた、自分を変えたくないの?  投票権なんて買わないで、市民権を買うべきよ。 男 ありがとうございます。  おっしゃるとおり変えたいです。  でも自分だけでなく、もっと全体が変わればと思います。 女 ずいぶん理想家なのね。  きっとまた五百年かかるわ。 男 ええ、もしあと五百年かかるならそれまで生き続ける覚悟です。  で、あなたは? 女 え? 男 勝手な想像ですが……。  もしかして、誰か、大事な人のあとを追うとか、そういうことで  すか?    沈黙。     女 そうよ。  意外にクラシックでしょ?  気力が落ちているのをパンとサーカスのせいにしてるの。  じつはただ弱いだけなのに……。 男 その人はどうして……? 女 よくわからないわ。  危険地帯に取材に行ったきりでね。  きっと深追いし過ぎたのよ。  兵士でも立ち入らないようなエリアにまで……。 男 あなたが弱いとは思いません。  でもいまはパンとサーカスのせいにしておきましょう。  どんなろくでもない施策でもなにかの役には立つものです。  そして待ちましょう。  まだわかりませんよ。 女 待ったのよ。  待って待って……。  もう死ぬほど。    女、立ち上がり、背を向ける。 男 それでも待ちましょう。(立ち上がり、女に近づく)  私も五百年待つつもりです。  確証のないことを待つのは辛いかと思います。  でも、あなたが待つというまで私は帰りません。  帰れません。  あなたのペースなんて知りません。    男、後ろから女に近寄り、女の肩を掴むが、すぐに放す。    女、振り返る。 男 鎖をつけてください。  鎖と錘を。  この手に。    男、両手を差し出す。    二人、見つめ合ったのち、女、背を向ける。    沈黙。 女 なんだか崩されちゃったみたい。  あの人を失ってからずっと貫いていた私のペースが。 男 まだ失ったかどうかはわかりません。  待ちましょう。  どうか、あなたも。    女、振り返る。 女 そうね。  それがこれからの私の生命線ね。  だからあなたに見張ってもらう必要はないわ。     沈黙。 女 いまね、さっき聞いた喜劇を思い出しちゃった。  あの下男って一体誰のことが好きだったのかしらね? 男 どうでしょう……。 女 あ、ごめんなさい、下男から連想するなんて失礼だったわね。 男 いえ、かまいません、私は奴隷ですから。    女、男の傍に置かれた本を眺める。 女 ねえ、本を一冊借りてもいい? 男 え、ええ、もちろん。  どれにしますか?  現代文学、詩集、古典戯曲、いろいろありますが。 女 そうね、どうせなら一番難しそうな本に挑戦してみようかしら。  あなたしか読めない本。  ほら、ちょっと前に無記名で届いたのあったじゃない? 男 ああ……。    男、山の中から本を選び出す。 男 こちらです。 女 ありがとう。  この本って、もしかしてあなたが書いたの? 男 まさか。  そんなわけありません。 女 そう、そうよね。  こんなに古い本だものね。  でもこれを送ったのはあなたなんじゃない?  ね。 男 え、あ、いえ……。 女 うん?  べつにいいじゃない?  でもどうして?  理由だけ聞きたいわ。 男 処分場でたまたま見つけたんです。  お察しの通りあわよくば再出版の可能性はないものかと。 女 どんな本なの? 男 百年待った犬の話です。  戦地に出兵した主人の帰りを犬が待つという話です。  もちろん寓話です。  しかも喜劇なんです。 女 例によって笑えない喜劇かしら? 男 ええ、まあ古典喜劇ですから悲劇以外は喜劇に属します。  でも訳し方によっては笑えるものになるかもしれません。 女 じゃあ腕の見せどころね? 男 ええ、でももしよろしかったら、いかがですか?  訳してみませんか? 女 私が?  じゃあ辞書を貸してもらえる? 男 いえ、辞書はありません。 女 じゃあ無理だわ。 男 私が直訳しておきます。  私を辞書代わりに使ってください。 女 なるほど二人でね。  同じ待つ身だものね。  おあつらえ向きかもね。 男 ええ、犬でも百年ですから。 女 五百年くらい我慢しなきゃ駄目? 男 あ、また、誰か来ました。 女 本当ね。 男 見て来ます。  あ、えーっと、こんな言葉がありまして……。  待つのは辛い、忘れるのも辛い、でもどちらも選べないのは一番辛  い―という言葉をいま急に思い出しました。 女 それはゲーテ?  それともまたオリジナルかしら? 男 いえ、どちらでもありません。  昔の作家です。  誰だか忘れましたけど。    男、上手に去る。    女、本を捲っている。    やがて、男、戻る。 男 今月分の小麦粉の配給でした。  キッチンの収納庫がいっぱいでしたので、とりあえず扉の前に置きま  した。 女 ありがとう。  なんだか急にお腹が空いてきたわ。  男 じゃあ、やっぱり明日の分のパンを捏ねておきましょうか? 女 そうね。  悪いわね、頼める? 男 ええ、もちろん。  どのくらい用意しておきましょうか?  かなりの小麦粉がありますが……。 女 そう……。  じゃあ五百年分くらい出来るかしら? 男 え、五百年?  そんなにですか?  いや、それだとけっこう大変なので、とりあえず百年分くらいでどう  でしょうか? 女 たった?  意外にいくじがないのね。  いいわ、じゃあ百年分で。 男 はい。  あ、そうだ。  それから、これ、今月分のチケットです。    男、シャツの胸ポケットから封筒を出して手渡す。 女 今月はなにかしらね。    女、すぐに開封する。 女 コンサートだわ。  管弦楽のフルオーケストラ。  これ招待を受けたのと同じ催しだわ。 男 じゃあやっぱりご一緒していただけませんか? 女 その方がいい? 男 ええ、まだ駆け出しですから。  その方が気が楽です。  もうしばらくはアシスタントということでお願いいたします。 女 じゃあそうしましょうか。  まあそうね、先は長いものね。 男 ええ、では、とりあえず百年分を捏ねて参ります。 女 よろしくね。 男 はい。     男、上手に去る。    女、本を捲っている。    やがて顔を上げ、上手の方を見つめる。    霧の向こうに道標のようなものを見つけ    たように。    溶暗。    やがて暗転。             ‐了‐  女と男(奴隷)による75分の二人芝居。 女の住む部屋に一人の男が使用人として雇われる。 男は奴隷の身だったが、任せられる用務は女の仕事(翻訳)の補助役など デスクワークが中心。 そして数週間後には男は仕事のメインを担うようになる。 優秀なる奴隷は、主従関係を保ったまま主人のペース・人生観に変化を もたらすことができるか。 初演 2013年6月1日・2日   東京都渋谷区 レンタルスペースさくら原宿竹下口 地下1階